15年間の市政を振り返って…
本郷谷市長に聞く

 本郷谷健次市長が先月18日、健康上の理由で退任を表明。今月30日12時30分から市庁舎本館正面玄関前で退庁式が行われる。本郷谷市長は2006年の市長選に立候補したが次点で落選。市議を経て、2010年の市長選に再挑戦し、初当選した。現在は4期目の途中で、任期を1年残していた。本郷谷市長に15年間の市政を振り返っていただいた。 【戸田 照朗】

インタビューに答える本郷谷健次市長

地方自治に民間の考え方を

 記者 お身体はいかがですか。
 市長 2年前に膵臓の手術をし、その後、健康回復、医療的ケアをしながら、職務を進めてきましたが、これ以上激務の市長職を続けることは、肉体的にも精神的にも限界を感じ、決断させていただきました。やり残したこと、やりたいことが沢山あるなかで、任期の途中で退くことに大変申し訳なく思っています。
 記者 市長になる前、それまでお勤めだった新日本製鉄を辞め、監査法人に移られました。なぜ、転職をされたのですか。
 市長 大学では財政学の勉強をしていましたので、民間企業に就職しましたが、国の政策への興味もありました。50歳近くになり、人生も真ん中あたりで、もっと社会に貢献したいという思いがありました。当時、パブリック、特に地方自治に民間の考え方を導入すべきだという動きがありました。2000年4月に「地方分権一括法」が施行され、それまで「三割自治」と言われていたのを、地方に予算や権限を移すべきだという大きな法律改正がありました。民間企業にいて、日本の地方自治はすごく遅れている、これは何とかしなければいけない、という思いもありました。そこで、監査法人で財務省、総務省など国に対するコンサルを担当し、パブリックへの糸口が生まれました。自分の足元を見てみると、松戸市も中央集権的な地方自治で遅れていました。
 記者 それで、政治家を目指されたのですか。
 市長 市長も政治家のひとりではありますが、「少子化・高齢化への対応」や「次世代につながる都市環境づくり」など、多くの社会問題を解決するために、住民のニーズに的確に対応し、地域独自の課題解決に取り組める地方分権に対応した市役所へ移行するには、マネジメント力(経営・管理する力)を高めることが必要なんです。職員が市民生活を支える様々な業務を担っていますが、実際の市長の仕事は、市役所としての方向性を束ね、市民のための組織となるようマネジメントすることだと思います。そこで、地方自治のマネジメントを変えていく必要がある、という思いから、松戸市の市長選に立候補しました。
 記者 一議員ということではなく、最初から首長にということだったのですか。
 市長 もともとマネジメントするということですから、首長に興味がありました。市長選に落選し、一時期市議会議員となりましたが、次の市長選に立候補するつもりでいたので、経験のために市議会議員を務めさせていただきました。市長になれなければ、民間に戻るつもりでいました。中央集権的な組織を地方分権時代に合った組織・職員の意識・仕事の仕方・市民との関係にしていくことも
15年で取り組んだことです。市の仕事の縦割り意識をなくすために部長の上にあった本部長を廃止して、民間経験者も約300人採用し、国・県との人事交流も積極的に行いました。縦割りになっていると、自分の業務の範疇(はんちゅう)のことしか考えない。本部長制を廃止して、横のつながりをよくして、みんなが議論できるように、なるべく階層を減らしたかった。松戸をどうしていくのか、ということをできるだけ共通認識を持って、それぞれの部局長が市全体のことを考えて、課長以下に指示を出して仕事ができるようにしました。

初当選した2010年の市長選で、松戸駅前で街頭演説する本郷谷健次氏

子育て環境づくりに全力

 記者 市役所や職員は変わりましたか。
 市長 ものすごく変わりました。職員の松戸を良くしたいという気持ちが出てきています。職員もいろいろアイデアを提案して事業を進めてきました。いろいろ取り組んでいますが、「子どもたちの環境づくり」は、まず2017年までに市内全23駅の駅ナカ・駅近に小規模保育施設を整備しました。また、保育園の充実だけでなく、幼稚園での預かり保育の拡充や保育料の差額を市が補助するなど、保護者の時間や経済的な問題を解決し、魅力的な両施設をどちらでも利用できるよう整備しました。入園前児童の支援については、お子さんが1、2歳のころは、保護者同士の交流が少ないという現状から、概ね0歳から3歳までの乳幼児とその保護者が気軽に集える場として「おやこDE広場」や「子育て支援センター」を市内28施設整備し、保護者同士の交流や子育て相談の場として利用してもらっていて、このような充実した子育て支援策が評価され、日本経済新聞社関連の『共働き子育てしやすい街ランキング』において、3回の総合編1位を受賞しました。職員が主体的に必要だと思う、国や県でも初めてという施策も実施しています。国や他の市も松戸市の施策を参考にして頂いていると聞いています。
 記者 市長にとって子育てを支援するという政策の位置づけは?
 市長 松戸も専業主婦が減り、働く女性が増えるなかで、より一層の女性の社会参画やファミリー世帯のサポートをするには、社会全体で子育てするための仕組みづくりが必要だと考えています。新しい時代にあったまちづくりとして、子育て環境をしっかり作ることは、全ての政策に先行します。女性が社会に参加できるし、若い人たちが集まってくる。若い人たちが集まってくれば松戸も元気になる。将来のある子どもたちに対する投資は、よい施策であるならやっていこうと、一生懸命やってきました。保育施設等の「待機児童」の問題は10数年前から言われてきましたが、松戸では潜在的な保育ニーズを見越して、徹底的に保育政策を行ってきた結果、2016年から待機児童ゼロを継続して維持しています。お母さん、お父さんが働きながら安心して子育てできる環境を全力でつくってきました。

「共働き子育てしやすい街ランキング2017」で、松戸市が全国編1位を受賞

駅周辺と常盤平のまちづくり

 記者 今までにできたこと、できなかったこととしてはどんなことがあるでしょうか。
 市長 できたこととしては、子育て環境の整備もそうですが、みんなで助け合っていけるまちづくりを進めています。高齢社会を迎えるにあたって、地域の人たちが共に助けあう「地域共生社会」を目指して、市内15地域が基盤となるよう町会・自治会を再編し、市内15圏域に高齢者いきいき安心センター(地域包括支援センター)、医師会の協力を得て在宅医療・介護連携支援センターを開設し、在宅看取りの分野でも松戸市は先進自治体として評価されています。松戸市の顔でもある松戸駅周辺は、国から松戸駅周辺を「都市再生緊急整備地域」に指定していただき、民間の事業提案に基づき高層ビルも建てられるようになりました。これから地権者の理解を得ながら事業を進めることになります(都市再生緊急整備地域では、土地利用規制の緩和や、都市計画の提案、事業認可等の手続期間の短縮、民間プロジェクトに対する金融支援や税制措置を受けるための国土交通大臣の認定等の特別な措置を受けることができる)。また、松戸市をけん引してきた常盤平団地のリニューアルなどについては、今年の2月にUR都市機構と「常盤平地域のまちづくりの連携及び協力に関する覚書」を締結しました。これまで、継続して、検討を続けてきましたので、市の未来にとって大事な施策であり、長期にわたる大事業になると思います。
 記者 駅周辺の整備や常盤平団地の活性化など、まちづくりにはずいぶん時間がかかるんですね。
 市長 常盤平団地の入居が昭和35年に始まり、日本の高度経済成長を支えてきた地域として松戸市は大きくなってきました。それから60年以上経ち、高齢化などで、松戸(駅周辺)へ通勤、通学、食事や買い物に来ていた人たちが減ってしまい、市全体の元気にも影響してきました。住民の皆さまが安心して住み続けられるよう、緑豊かな環境を活かしつつ、若い人たちも住めるようにしていかないと、松戸市は発展していきません。これまでのまちづくりを礎(いしずえ)にして、10年、20年先の松戸市の構築に向け、まちづくりを進めていってほしいと思います。

大関昇進を果たした琴ノ若関(琴櫻関)が訪問(昨年)

人口50万人目の市民となった千葉遥賀さん家族を迎えてお祝い(昨年)

読者へのメッセージ

 記者 最後に読者のみなさんに一言いただけますか。
 市長 市長という仕事をするためには皆さまの応援がなければできませんでした。皆さまの応援でその責任を全うしようと思い一生懸命やってきました。いろんな課題がありましたが、松戸市民の皆さまはボランティア精神が旺盛で、みんなで協力していこうという思いが本当に強い方が多くて、みんなで助け合いながら、乗り切ってきたと思います。皆さまのおかげで、長年にわたり市長職という重責を担わせていただいたこと、大変感謝しております。お礼申し上げたい。私は市長職を去りますが、これからも一市民としてこの松戸市をみんなで盛り上げていきたいと思います。長い間、本当に有り難うございました。
 ※インタビューには出てこなかったこれまで実施の施策としては、「松戸市立総合医療センター」を千駄堀に開院、医療的ケア児等の家族に対するレスパイト事業、東日本大震災での放射線量測定と除染、新型コロナウイルス感染症対策での予防接種早期実現、防犯カメラの積極的な設置、「小1の壁」対策として市立小学校での始業前の見守り、給食費の無償化への取り組み、パートナーシップ宣誓制度の導入、市立松戸高校の入試やカリキュラムなどの改革、みらい分校(公立夜間中学)の開設、文化・スポーツ行政を統括する「文化スポーツ部」を市長部局に新設などがある。
 ※本郷谷市長の退任に伴う市長選挙は5月25日告示、6月1日投開票で行われる。

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