松戸の散歩道⑨
今回は前回(4月27日発行・908号)の続きから。6月7日には全国「みどりの愛護」のつどいが行われ、14日に来園者2000万人に到達した21世紀の森と広場を歩く。【戸田 照朗】
「自然尊重型公園」21世紀の森と広場
「市内で最後に残った最大の緑地」と言われた千駄堀。かつては谷津田や斜面林、湿地が広がる自然の宝庫だった。「谷津(やつ)」とは、入り江が台地の奥まで入り込んだような形で残る谷状の地形で、縄文時代に海水面が上下してできたと考えられている。この谷津には、湧水が多く出るため水田に適し、「谷津田」と呼ばれていた。谷津は北総独特の地形で、千駄堀にはこの地域の原風景が残されていた。
しかし、宅地化の波は千駄堀周辺にも迫り、この貴重な緑を残すべく、市では昭和52年に同地を公園とする計画が長期構想として盛り込まれた。
当初は「自然公園」として残す道も検討されたが、法律や補助金の問題などから「都市公園」として整備されることが昭和56年に決まった。残念ながら「谷津田」には芝生が敷き詰められ、残せなかったが、湿地や樹林地などは細かな環境調査が行われ、そのまま保全できる地域と維持のために調整が必要な地域、レジャーなどに利用していく地域に区分された。釣りやペットの入園禁止(現在は一部開放)、自転車乗り入れ禁止、また開園時間の厳守など様々なルールがあるのも同公園が自然環境を守ることを最大のテーマにしているからである。
園内には自然生態園や千駄堀池、野草園、森の中の木道など自然観察や散策ができるエリアのほか、大きな芝生の広場が2つある。「みどりの里」といわれるエリアには小さな水田もあり、子どもたちが田植えを体験する講座も行われる。
市立博物館に隣接する「縄文の森」には竪穴式住居が3棟、再現されている。松戸には縄文時代の遺跡が多く、松戸の特徴をつかんだ展示だと言える。

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「千駄堀のわき水」の碑
谷津の風景は失われたが、園内には豊かな湧水が出ていたことを示す石碑がある。
公園に隣接している千葉西総合病院が建つ台地下にある「光と風の広場」。東屋があり、広場のベンチ下には苔が繁茂し、チョロチョロと流れるわき水のつくる小川のせせらぎが聞こえる一角に「千駄堀のわき水」の碑がある。
松戸東ロータリークラブ創立20周年記念事業として1990年に寄贈されたもので、松戸市公園緑地部(当時)が書いた以下のような説明文のプレートが掲げられている。
「二十一世紀の森と広場には、斜面からしみ出してくるわき水が各所にあり、なかでも、このあたりの水量が一番多く一日当り約770トン位わき出しています。この豊かなわき水は、金ヶ作・常盤平地区の台地約467ヘクタールに降った雨の一部が地下にしみ込み、数ヶ月の後にわき出てくるものです。それは、これらの地区に畑や山林が多く残されているがために、雨水が浸透しやすくなっているからです。このわき水は、昔から千駄堀・中和倉にかけて水田をうるおし、農業にたずさわる人々にとって深い自然の恵みです。この豊かなわき水のおかげで、サワガニやホタルがすむ自然環境が保たれています。これらを二十一世紀の森と広場の財産として、この地を訪れる人達のためにも未来に向かって、永く残していけることを強く願うものであります」。

「千駄堀のわき水」の碑
上総掘り掘削の跡
「つどいの広場」には「森の井戸21」と書かれた石板がある。ここは1995年に「上総掘り」という伝統の技術によって井戸の掘削が行われた場所だ。
上総掘りは上総地方で始められた井戸の掘り方で、竹のしなりを利用しながら人力で掘り進み、掘削機の先端につけた鉄管により地下深くまで掘削する。この方法で500メートル以上も掘ることができる。ボランティアで掘削を担当したのは、「上総掘りを守る会」の会長で市内水道配管業の篠田良夫さん(当時37)と金子宏さん(同)。「千駄堀池の浄化とホタルの里づくり」を計画していた松戸東ライオンズクラブと松戸市が協力した。
作業は篠田さんの師匠である袖ヶ浦の吉田丈夫さん(当時65)らの指導を仰ぎながら進められた。この時掘削された井戸の深さは70メートル。自噴を目指していたが、残念ながら自噴には及ばず、最終的には電動ポンプで水を汲み上げた。作業が行われたのは、1995年7月21日から9月10日まで。掘削が行われたのは8月30日までだった。新聞各紙でも取り上げられ、珍しい上総掘りを見ようと見物する人などで、ちょっとした賑わいを見せた。
掘削の後、現在のような形に整備されたが、この石板と石の井戸は当時の賑わいを思い起こさせてくれるモニュメントである。

篠田良夫さんらによって行われた「上総掘り」の作業

森の井戸21
千駄堀池
千駄堀池は3つの谷津が集まって出来ている人工の池で、広さは東京ドーム約1個分(5ヘクタール)の大きさがあり、湧水量は1日で約1000トンもある雄大な池。池の中央には水鳥等が営巣出来るように島が作られ、北側は生きもの専用区域として人の立入りを制限し自然環境の保全に努めている。
南側には霧の噴水が設けられ、毎日午前10時から1時間に1回水面を霧が覆い、とても幻想的な風景が楽しめる。
園の西側にある「自然生態園」は同園の象徴的なエリアで、人の出入りが制限されている。自然観察舎の中にある観察室から自然生態園の自然や千駄堀池を観察できる。望遠鏡や野鳥観察ガイドブックが備えられており、バードウォッチングが楽しめる。土、日、祝日には「自然解説員」が勤務し、野草、野鳥、昆虫などの質問に答える。自然生態園の中にある木道を自然解説員と歩きながら観察する「湿地の観察会」も行われる。

千駄堀池
あそびのすみか
2020年から整備が進められている新施設。「あそびのすみか」は久野ゆりなさん(当時、和名ヶ谷小5年)の命名。市が市内の小学生から公募し、応募2065件の中から選ばれた。23年10月現在、「ジオマウンテン」(かつての生き物が眠る地層や、岩石の風化・浸食を想起させる砂山)、「昆虫のスミカ」(蟻塚や洞窟住居を思わせる、自然の中に現れる山型の造形)、「縄文サークル」(竪穴式住居の形状をイメージしたネットや吊り橋で遊ぶ複合遊具。円形に配置することで「縄文のムラ」の風景をつくる)、「縄文トンネル」(バーベキュー場方面からあそびのすみかへ導くタイムトンネルをイメージ)、「冒険トレイル」(ネットボックスの中の不安定な足場で身体能力とバランス感覚が鍛えられるネットクライム)、「スパイラルフォレスト」(地上10メートルの高さから木々の横を滑り降りるローラースライダー)がある。

あそびのすみか