日曜日に観たい この1本
陪審員2番

 今年95歳になるクリント・イーストウッド監督の最新作。ファンの間では、最後の作品になるのでは? ともささやかれている。ナショナル・ボード・オブ・レビュー(米国映画批評会議)によって2024年のトップ10映画の一つに選ばれた話題作だが、日本では劇場未公開。アメリカでの公開も小規模にとどまったという。3月5日からデジタル配信開始、今月23日からブルーレイ、DVDが発売され、レンタルも開始された。
 主人公のジャスティン・ケンプはある事件の陪審員に選ばれる。男が酒場で恋人と口論になり、殴打して殺害したのではないか、と疑われている。評議では、12人の陪審員のうち10人が有罪を主張。ジャスティンはそれに反対した。というのも、事件の詳細を知るにつれ、ある記憶がよみがえる。ひょっとしたら自分が真犯人なのではないか、という疑念が湧いてきたのだ。
 ジャスティンは、事件があった雨の夜、運転していて何かにぶつかった。直ぐに車の外に出て確認したが、何も見つからなかった。近くには「鹿に注意」という看板があり、鹿とぶつかったのだろうと思っていた。
 ジャスティンには、飲酒運転で事故を起こしたという過去がある。以来、断酒のための自助サークルに入り、断酒を続けているが、もし、人身事故を起こしたのであれば、重罪に問われる可能性がある。ジャスティンの妻は妊娠中。この幸せをすべて捨てて、名乗り出る勇気はない。
子どもの世話をするために早く評決を出して帰りたいという女性、被告を最初から犯人だと決めつけている男性など、12人の陪審員にもそれぞれの事情や思い込みがある。
 担当の女性検事フェイスは検事長選挙のために、何としてもこの裁判に勝つ必要があった。担当の国選弁護人エリックは多くの事件を抱えており、被告のためだけに時間を割くことができない。被告の男性は、ここでも不利な立場に置かれている。
 実はこのフェイス検事とエリック弁護士は同じ学校の出身。裁判の後、バーで落ち合うシーンがある。公判中にプライベートで検事と弁護士が会っていいのかどうかは分からないが、エリックはフェイスに「君は政治家になった」「司法制度は完璧ではないが、ないよりましだ」などと話す。
 この作品を観る観客と主人公のジャスティンだけが、最初から被告の男性がえん罪だということを知っている。やがて、事件に疑問を持ち始めた検事のフェイスにも葛藤(かっとう)が生まれる。
 人が人を裁くことの難しさを感じる。日本でも袴田事件など、えん罪事件は珍しくない。この作品の中で裁判が行われている州に死刑制度があるのかどうかは分からないが、えん罪がある以上、死刑制度があっていいのか、とも考える。【戸田 照朗】
 監督=クリント・イーストウッド/脚本=ジョナサン・A・エイブラムズ/出演=ニコラス・ホルト、トニ・コレット、J・K・シモンズ、キーファー・サザーランド、福山智可子/2024年、アメリカ
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 『陪審員2番』、ブルーレイ&DVDセット(2枚組)、5280円(税込)、発売元=ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント、販売元=NBCユニバーサル・エンターテイメント

©2024 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

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