日曜日に観たい この1本 こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話

 実話の映画化。
 札幌で暮らす鹿野靖明(大泉洋)は幼少から筋ジストロフィーという難病を患い、体で動かせるのは首と手だけ。介助なしでは生きられないのに病院を飛び出し、ボランティアたちと自立生活を送っていた。
 医大生の田中(三浦春馬)もボランティアの一人。そこへ恋人の美咲(高畑充希)が様子を見にやってきた。最近、田中がデートをしてくれないので、浮気でもしているのかと気になったのだ。ボランティアが終わったら食事に行こうと、とりつくろう田中。そこへ泊まりのボランティアが来られなくなったという電話が。鹿野は美咲が田中の彼女だとは知らず、新しいボランティアだと勘違いして、二人に泊まりのボランティアを半ば強引に頼み込む。
 不眠症の鹿野は田中に夜中までオセロゲームの相手をさせ、深夜の2時に「バナナを食べないと眠れない」とワガママなことを言い出すのだった。しかたなく、美咲は深夜の街にバナナを求めて走り出していった。
 変なタイトルだが、最初に出てくるこのエピソードがもとになっている。
 とにかく、この鹿野という人はワガママだ。ボランティアは無償で自分の時間を使って来てくれているのに、感謝の言葉はなく、キツいダメだしばかりをしている。
 田中との付き合いもあり、成り行きでボランティアに参加するようになった美咲の目線は、映画を観ている観客の目線に近い。田中のことを役立たずのように悪く言う鹿野を見ていた美咲がついに切れる。「何様ですか。障がい者って、そんなに偉いんですか」と。
ちょっと溜飲がさがる。
 2回観たが、最初に観たときは、鹿野に必要以上にムカついてしまって、なかなか話に入っていけなかった。
筋ジストロフィーとは、筋力が徐々に衰える病気。鹿野は12歳で診断を下され、20歳までしか生きられないと言われていた。しかし、医師の予想を大きく上回り34歳になっても生きている。
 田中のほかにも、ずっと前から鹿野の自立生活を支えてきたと思われる献身的なベテランのボランティアが出てくる。やはり、鹿野のボランティアをやることで、彼らも何か精神的に有益なものを得ているのだろう。そうとしか考えられない。
 鹿野と田中が好対照な人物として描かれている。
 田中は市内の大きな病院の御曹司で、北大の医学部に通っている。多分、子どもの頃から親の期待に応えるように頑張ってきたいい子なのだろう。病院長の父親は、ボランティアもいいが、もっと医学部の勉強に力を入れるように言うが、田中はボランティアを辞めない。いい子のささやかな抵抗。いや、自立へのささやかな一歩なのかもしれない。
 鹿野は主治医の言うことを聞かず、母親に反発して寄せ付けず、心配をよそにボランティアを頼りに一人暮らしをしている。病院の天井の穴を数えながら死んでゆくなんて、まっぴらごめん。20歳までしか生きられないと言われた彼にとっては、毎日が勝負。1分1秒が大切なのだ。母親には自分の人生を生きて欲しいと思っている。障がい者の世話は全て家族の責任という、この国の常識に一石を投じたいという気持ちもある。
 健常者で医学部のエリートである田中は生きづらそうにしているが、体の自由がほとんどきかない鹿野は自由に生きているように見える。
 田中は美咲が恋人だと言いそびれたのか、それとも言う必要がないと思ったのか、鹿野は二人が付き合っていることを知らずに、美咲に恋をしてしまう。意地悪な見方をすれば、田中には鹿野が美咲の恋愛対象になるわけがないという気持ちがあったのではないか。そんな自分の中の矛盾に気がついた田中は壁にぶつかることになる。
 自分らしく生きるというのは難しい。そんなことを考えさせられる作品だった。
【戸田 照朗】
 監督=前田哲/脚本=橋本裕志/音楽=富貴晴美/原作=渡辺一史「こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち」(文春文庫刊)/出演=大泉洋、高畑充希、三浦春馬、萩原聖人、渡辺真起子、宇野祥平、韓英恵、竜雷太、綾戸智恵、佐藤浩市、原田美枝子
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