日曜日に観たいこの1本
ノー・エスケープ 自由への国境
トランプ大統領が壁を作ると言っているアメリカとメキシコの国境。夜明けの砂漠の中のハイウェイを不法移民を乗せたトラックが走る。ところが、エンジントラブルでトラックが止まってしまう。やむなく、15人の移民たちは砂漠を歩いて国境を越えることになる。国境線の金網を超えても砂漠は続く。そこへ、突然の銃撃。移民たちは砂漠の中で次々に銃弾に倒れてゆく。
砂漠の中での謎の襲撃者との攻防というと「激突!」(1971年)を思い出す。スティーブン・スピルバーグ監督の低予算で作られた初期の作品。「砂漠」という警察の力も及ばない無法地帯で、ある意味逃げ場もない場所での逃走劇だ。謎の襲撃者との心理戦が見事だった(といっても、襲撃者の顔は最後まで明らかにされず、その行動は異常に執拗で、普通の心理ではないことは明らかだった)。
「異常なほど執拗」という面では、今作の襲撃者も同じだ。演じているのはアメリカのテレビシリーズ「ウォーキング・デッド」でニーガン役を演じているジェフリー・ディーン・モーガン。私は「ウォーキング・デッド」のファンで、動画サイトで見ているところだったので、重なって見えてしまう。ただ、冷酷で残忍という面では同じ役柄なので違和感がない。
襲撃者はトラックで移動し、猟犬を使って移民たちを追い、ライフルで狙う。まさに「狩り」だ。
主人公はアメリカで別れた息子に会うために移民たちとともに国境を目指していたモイセスという男。モイセスを演じるのはガエル・ガルシア・ベルナル。メキシコを代表する俳優でエグゼクティブ・プロデューサーも務めているという。武器も移動手段も持たないモイセスら生き残った移民たちが、いかに襲撃者から逃れるかが見所だ。
ジェフリー・ディーン・モーガンは謎の襲撃者の歪んだ側面をよく演じていた。
まさに狩りをするように容赦なく移民を襲うが、犬は溺愛している。アメリカ側にあるもの(自分の側のもの)は「善」で、人としての対応ができるが、アメリカに侵入するものは絶対に許すことができず、鬼のような扱いをする。仕事があるのかないのか。ウイスキーをラッパ飲みしながら移民を追い回し、運転するボロボロのトラックからは経済的には恵まれない彼の生活が透けて見える。移民を「狩る」のは歪んだ「愛国心」の故か。満たされない自身の境遇の責任と怒りの矛先を、より弱い存在の他者(この場合は移民)に向けているように見える。この作品は大統領選挙よりも前に制作されたというが、襲撃者もトランプ氏を熱狂的に支持しているという「プア・ホワイト」の一人なのだろう。
【戸田 照朗】
監督=ホナス・キュアロン/出演=ガエル・ガルシア・ベルナル、ジェフリー・ディーン・モーガン/2015年、メキシコ、フランス
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「ノー・エスケープ 自由への国境」、DVD税別3800円、ブルーレイ税別4700円、発売元=アスミック・エース、販売元=ポニーキャニオン