本よみ松よみ堂
岡崎雅子著『寝ても覚めてもアザラシ救助隊』

アザラシをこよなく愛する飼育員の奮闘記

 「『アザラシが好きだ』。本書の内容を一言で表すと、この一文に尽きる。」
 この本はこんな文章で始まる。
 著者の岡崎雅子さんは、日本で唯一のアザラシの保護施設「オホーツクとっかりセンター」で飼育員として働いている。とっかりとはアイヌ語でアザラシのこと。
 幼い頃に偶然もらったアザラシのぬいぐるみをきっかけにアザラシが好きになり、水族館で働くには獣医師にならなければ、と思い込んで、大学の獣医学科に進学。オホーツクとっかりセンターで働くためには学生の時に実習に参加して、欠員補充を待つしかない。
 岡崎さんは犬猫はあまり得意ではないというが、九州の水族館の近くにある動物病院で働きながら欠員を待ち、やがて晴れてオホーツクとっかりセンターの飼育員となった。飼育員に獣医師の資格はいらないようだが、とにかく好きなことにまっすぐな人のようだ。
 アザラシはかわいい。都市河川に迷い込んだアザラシが愛称をつけられて、アイドルのようにテレビが追いかけたことがあるのを覚えている。頭が良く、それぞれに個性があり、表情が豊か。アザラシは18種類いるが、北海道ではゴマフアザラシ、ワモンアザラシ、クラカケアザラシ、アゴヒゲアザラシ、ゼニガタアザラシの5種類が見られる。ゴマフアザラシ、ワモンアザラシ、クラカケアザラシは、ホワイトコートと呼ばれる白い毛に覆われて生まれてくる。岡崎さんのぬいぐるみも、ホワイトコートをまとった赤ちゃんのぬいぐるみだった。
 同センターで保護するのはオホーツク沿岸に生息しているゴマフアザラシ、ワモンアザラシ、クラカケアザラシ、アゴヒゲアザラシの4種類。ケガをしたり、親とはぐれた赤ちゃんアザラシなどが保護される。岡崎さんが同センターで勤め始める2012年以前は、ゴマフアザラシは基本的に野生復帰させ、ワモンアザラシ、クラカケアザラシ、アゴヒゲアザラシは希少種であるため、生態研究や飼育方法の確立、繁殖研究のために、回復後も飼育継続になることがほとんどだったという。
 ゴマフアザラシの寿命は約30年、ワモンアザラシの寿命は約40年、クラカケアザラシの寿命は約25年、アゴヒゲアザラシの寿命は25年~30年。しかし、保護したアザラシが数年で死んでしまったり、衛星発信器をつけてリリースした個体の多くが数週間で発信が途絶えたりと、保護活動は試行錯誤の連続。アザラシを自分の子どものように愛し、アザラシの命と向き合う毎日には苦しい日もあるだろう。アザラシによる漁業被害も深刻で、人間の生活とどう折り合いをつけていけばいいのか、その答えはまだ分からない。
 1987年に民家の庭先で始まったという同センターは、「アザラシランド」と「アザラシシーパラダイス」という2つの施設に発展し、年間に3万人を超える観光客が訪れるという。
 同センターは紋別にある。紋別は流氷で有名な街だが、私は紋別のユースホステルに泊まり、流氷を見たことがある。ちょうど、同センターが始まった87年のことだ。当時、流氷の上にテントを張った学生が沖まで流されてしまったという話を聞いたりした。アザラシは流氷の上で出産するなど、その生態と流氷は深い関わりがあるという。地球温暖化で、今後、オホーツクの流氷はどうなってしまうのか。今年の暑さを思うと心配になった。
 この本には、岡崎さんが出会った個性豊かなアザラシたちのエピソードもふんだんに盛り込まれている。【奥森 広治】

実業之日本社 1650円(税込)

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