日曜日に観たい この1本
今夜、世界からこの恋が消えても

 高校生の日野真織(まおり・福本莉子)は交通事故で「前向性健忘」を患っており、一晩眠ると前日のことを全て忘れてしまう。事故までの記憶はあるが、その後の記憶の蓄積がない。ベッドの周りには張り紙がしてあり、まず、前日寝る前に自分が書いた日記を読むところから一日が始まる。
 真織の病気のことを知っているのは、両親(野間口徹・水野真紀)と親友の綿矢泉(古川琴音)だけ。真織の病気につけこんで悪意のある人が近づいて来ることを両親が心配したからだ。
 そんな真織に同級生の神谷透(道枝駿佑)が告白をする。真織と透はほとんど面識がなかった。透はいじめられているクラスメイトを助けるために嘘の告白をしたのだ。いじめっ子達は、真織に告白すればクラスメイトのいじめを止めると約束した。人気のある真織に透がふられるところを動画撮影して笑いものにしようとしていた。
 ところが、何を思ったのか、真織は透の告白を受け入れた。告白が嘘だったことを透から謝罪された後も、「放課後までお互い話しかけない」、「連絡のやり取りは簡潔にする」、そして「本気で好きにならない」の3つの約束をして、つきあうことにした。
 透は早く母を病気で亡くし、父(萩原聖人)と二人暮らし。姉の早苗(松本穂香)が母親がわりだったが、姉も家を出た。透は家事をこなし、料理もうまい。父は若い頃から小説家を志しているが、妻に先立たれてからは自暴自棄になっている。
 あることをきっかけに、透は真織の病気のことを知るが、真織の毎日が楽しいことでいっぱいになるようにと、知らないふりを続ける。毎朝目を覚まして自分の病気のことを「初めて」知る真織の一日は絶望感から始まる。そんな真織の苦しみを思ってのことだった。
 「50回目のファースト・キス」(2004年、アメリカ)など、似たような設定の作品は以前にもあったが、今作はひと味違う。
 実はこの映画は、真織の病気が治ったかもしれない、というところから始まる。スケッチブックを開くと、見知らぬ少年の肖像が何枚も残されている。そして、なぜか泉の手もとに真織が書いた日記がある。オープニングから不安な空気が漂っている。
 真織と透の関係が優しさに包まれていて美しい。そして、この物語は、二人のことをずっとそばで見てきた、泉の物語でもある。いろんなことを引き受けている(背負っている)泉の気持ちを思うと、涙が止まらなかった。
 透明感のある主演二人の演技というか、存在感がすばらしい。そして、泉を演じた古川琴音さんも主演の一人と言っていいほどの存在感だった。
【戸田 照朗】
 原作=一条岬『今夜、世界からこの恋が消えても』(メディアワークス文庫/KADOKAWA刊)/監督=三木孝浩/脚本=月川翔、松本花奈/音楽=亀田誠治/出演=道枝駿佑(なにわ男子)、福本莉子、古川琴音、前田航基、西垣匠、松本穂香、野間口徹、野波麻帆、水野真紀、萩原聖人/2022年、日本
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 「今夜、世界からこの恋が消えても」、ブルーレイ豪華版(3枚組)、税込8580円、DVD豪華版(3枚組)、税込7480円、DVD通常版、税込4180円、発売中、発売元=KADOKAWA/博報堂DYミュージック&ピクチャーズ、販売元=東宝

©2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会

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