日曜日に観たい この1本
アルプススタンドのはしの方

©2020「アルプススタンドのはしの方」製作委員会

 兵庫県立東播磨高校が第63回全国高等学校演劇大会で上演し、最優秀賞に輝いた戯曲が原作。2019年には商業演劇としても上演されている。
 戯曲がもとになっているだけに、ほとんどの場面がスタンドの片隅を舞台に展開される。グラウンドは一切映らないが、登場人物の様子やセリフから試合展開が見えてくる。
 夏の甲子園の1回戦。埼玉県立東入間高校は甲子園の常連校相手に苦戦を強いられていた。アルプススタンドの片隅には、なんとなく乗り切れない4人がいた。安田あすは(小野莉奈)と田宮ひかる(西本まりん)は演劇部の3年生。それに元野球部員の藤野富士夫(平井亜門)と優等生の宮下恵(中村守里)。
 演劇部の安田と田宮は、野球のルールをあまり理解しておらず、冒頭からその会話がコミカルに描かれる。
 松戸市内の高校の演劇部を取材したことがあるが、高校演劇の大会のシステムはちょっと変わっている。秋から冬にかけてブロック大会、県大会、関東大会が行われ、全国大会の出場校が決まるが、全国大会は新年度の夏に行われるため、関東大会までがんばってきた3年生が全国大会には出場できない。安田と田宮の会話から、そのへんの事情も垣間見える。そして、二人の関係にはどこかギクシャクしたものがある。
 グラウンドは一度も映らないし、当然、プレーする選手も映らないのだが、エースの「園田くん」、補欠の「矢野」がキーパーソンとして登場する。
 元野球部員の藤野富士夫はピッチャーだったが、園田がいる限り自分にチャンスはめぐってこないと、野球部を辞めてしまった。いつも補欠でベンチを温めている「矢野」のことをどこか見下している。
 「園田くん」は女子にも人気があるようで、演劇部の田宮と優等生の宮下は「園田くん」に憧れている。
 宮下はいつも学年でトップの成績だが、内気な性格で「園田くん」にも直接声をかけたことがないようだ。話しかけづらい雰囲気で、クラスでもちょっと浮いている。
 実際には登場しない人物や試合の様子などがセリフで浮かび上がるあたりは、いかにも演劇的だと思う。
 4人とは正反対に積極的に応援する側…、つまり片隅ではなく、真ん中にいる人物として吹奏楽部の部長・久住智香(黒木ひかり)が登場する。
 暑苦しいくらいに応援熱心な教師・厚木修平(目次立樹)も4人とのコントラストになっている。
 試合の中盤から終盤、5回から9回までの短い時間の出来事の中で、4人の距離が縮まり、最後には心を一つに声を合わせているという、誰にでもありそうな奇跡のような時間が描かれる。
 最初に見たときは、埼玉県の地方予選が舞台だと勘違いしていた。というのも、映像に映るスタンドがどう見ても甲子園(プロ野球の球場)に見えない。2度見て確認したが、セリフから甲子園だという設定がわかる。甲子園でロケできずに地方球場で撮影したのかもしれないが、無理せず地方予選という設定にしてもよかったように思う。【戸田 照朗】
 監督=城定秀夫/脚本=奥村徹也/原作=籔博晶・兵庫県立東播磨高等学校演劇部/出演=小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里、黒木ひかり、平井珠生、山川琉華、目次立樹
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 『アルプススタンドのはしの方』、デジタル配信中、Blu-ray発売中、BD発売・販売元=ポニーキャニオン

©2020「アルプススタンドのはしの方」製作委員会

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