web松戸よみうり / 日曜日に観たいこの一本 / 第850号（2020年6月28日）

日曜日に観たいこの１本
イエスタデイ

by matsuyomi · 2020年6月28日

　ある日目が覚めると、この世からビートルズがなくなっていたというパラレルワールドを描いたラブコメディー。製作者のビートルズに対する愛とリスペクトを感じる作品だ。
　イギリスの小さな海辺の町サフォークでシンガーソングライターをしているジャック。しかし、さっぱり芽が出ない。幼なじみで親友のエリーは彼の才能を信じて献身的にサポートするが、ジャックはすっかり自信をなくしてしまい、夢をあきらめようとする。
　そんな時、世界中が12秒間の停電に。自転車で夜の街を走っていたジャックは、突然の停電のためにバスにはねられてしまう。大けがをして入院したジャックだったが、幸い命に別状はなく、ほどなく退院。快気祝いに集まった仲間たちの前で、エリーがプレゼントしてくれた新しいギターを手に、ビートルズのイエスタデイをつま弾くと、なぜかみんなポカンとしている。「なんでそんないい曲を隠していたんだ」。みんなジャックが書いた新曲だと思っているのだ。
　なにか変だ。自宅に戻ったジャックがパソコンで「ビートルズ」を検索すると、出てくるのはクワガタムシなどの甲虫ばかり。ビートルズがこの世から消えている。ビートルズだけではなく、ほかにもいくつかのものが消えているようだ。
　ジャックは思い出せるだけのビートルズの曲を書きだして自分の曲として発表し、歌い始める。ところが、周囲の反応がイマイチ。やっぱり、曲が良くても自分ではだめなのか…。そう思っていたら、やっぱり分かる人には分かるもので、ＣＤ化を持ちかける若者が現れ、その曲が地元のテレビで注目され、さらにイギリスの人気アーティスト、エド・シーラン（本人が出演）の目に留まる。エドから欧州ツアーの前座をやってみないかという申し出があった。
　エドのおかげできっかけをつかんだジャックはスターの階段を上り始めるが、「ビートルズの曲を盗んでいる」という罪悪感もふくらんでいく。
　生まれて初めてビートルズの名曲を聴く人たちの表情というのはどういうものなのか。映画的演出で生み出された奇跡の瞬間にわくわくした。ビートルズが後のポップミュージックに与えた影響というのは計り知れない。例えば、自作自演のオリジナル曲だけでアルバムを制作するという今のスタイルが当たり前になったのもビートルズからだと思う。音楽以外にも思想や文化に大きな影響を与えた。その「ビートルズ」という大きなピースがなくなった世界というのは、この作品で描かれるよりももっと大きな欠落のある世の中になっていると思うが、この作品ではビートルズの数々の名曲がなくなった世界ということに焦点をあてて描いている。そして後半、ビートルズのファンなら感涙の場面が用意されている。
　ビートルズは４人のバンドで、ジャックはソロアーティストという違いはあるが、ジャック役のヒメーシュ・パテルの声がなかなかよくて、違和感がなかったというのも大きい。【戸田　照朗】
　製作・監督＝ダニー・ボイル／製作・脚本＝リチャード・カーティス／出演＝ヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズ、エド・シーラン、ケイト・マッキノン／２０１９年、アメリカ
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　「イエスタデイ」ブルーレイ＋ＤＶＤ税別3990円、４ＫＵｌｔｒａＨＤ＋ブルーレイ税別5990円、発売中、発売・販売元＝ＮＢＣユニバーサル・エンターテイメント