日曜日に観たい この1本
アイ・アム まきもと

 市役所の「おみおくり係」を担当している牧本壮(阿部サダヲ)の仕事は、人知れず亡くなった人の納骨をすること。身内からの引取り手がない人は、無縁墓地に納骨される。牧本は少ない手がかりを頼りに、身内と思われる人を探し出し、引取りをお願いするが、故人の人生に何があったのか、もう縁を切っている、と断られることが多い。それでも、「気が変わるかもしれない」と、すぐには納骨をしないものだから、牧本のデスクの周りは骨壷でいっぱいで、置き場所に困るほどだった。故人を大切にしたいという思いが強い牧本は、自費で葬式を準備し、一人でも多くの遺族・知人の出席を待ち続けていた。
 そんな牧本が周囲には奇異に映る。刑事の神代享(松下洸平)は、すぐに遺体を引取りに来ない牧本にいつも怒っている。たとえ一人でも葬儀に参列してほしい牧本は、粘り強く故人の身内を探し、説得しているため、時間がかかるのだ。
 そんなところへ、新任の局長・小野口義久(坪倉由幸)が県庁から赴任してきた。小野口は非効率な牧本の仕事ぶりに目を付け、「おみおくり係」の廃止を言い渡す。
 そして、最後の仕事となったのが孤独死した老人・蕪木孝一郎(宇崎竜童)の案件だった。
 牧本は、蕪木の遺品の中にあった少女の写真から、娘がいたのではないかと推測する。そして、蕪木の昔の同僚や愛人などを訪ね歩き、蕪木の人生をたどることになる。
 人の死まで効率主義の中で簡単に片付けられていく世知辛さ。牧本の存在はそんな効率主義へのアンチテーゼとして描かれているように思う。
 牧本は一つのことに集中すると周りが見えなくなってしまうところがあり、そして、恐ろしく察しが悪い。牧本自身、そのことに気づいているが、自分自身ではどうしようもないのだろう。生きにくさを感じながら生きてきたと思うが、これだけは絶対に譲れないという、芯の強さも持ち合わせている。
 そんな、ちょっと変わった牧本を阿部サダヲが好演。というより、この役は阿部サダヲ以外には考えられないと思うほど、役者の雰囲気と牧本というキャラクターがマッチしている。脇を固める、満島ひかり、宮沢りえ、國村隼らも存在感のある流石の演技を見せていた。
 原作は第70回ヴェネチア国際映画祭で4つの賞を受賞したウベルト・パゾリーニ監督の「おみおくりの作法」。
 【戸田 照朗】
 監督=水田伸生/脚本=倉持裕/原作=Uberto Pasolini 〝STILL LIFE〟/出演=阿部サダヲ、満島ひかり、宇崎竜童、松下洸平、でんでん、松尾スズキ、坪倉由幸、宮沢りえ、國村隼/2022年、日本
 ………………………………………………………
 『アイ・アム まきもと』、ブルーレイ&DVDセット5280円(税込)、発売・販売元=ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

©2022映画『アイ・アム まきもと』製作委員会

あわせて読みたい