日曜日に観たい この1本
カセットテープ ダイアリーズ

©BIF Bruce Limited 2019

 イギリスの田舎町ルートンで暮らすパキスタン移民の少年ジャベド。作品は小学生くらいの彼が親友のマットと見晴らしの良い丘の上で遊んでいる場面で始まる。
 丘からは都会へと続くハイウェイがよく見える。しかし、ジャベドにとってこの道は果てしなく遠い。作品全体に通じる象徴的なシーンだと思う。
 ジャベドの父は敬虔なムスリムで保守的。子どもの将来や結婚は親が決めるものだと思っている。父はパキスタンから豊かな生活を夢見てイギリスに移住したが、移民一世には限界がある。自動車工場で働く父は高校生になった息子に勉強していい仕事に就くよう口うるさく言う。1980年代のイギリス。長い不況の中で移民排斥を訴える極右勢力による嫌がらせも激しさを増していた。
 ジャベドの心のよりどころは日記をつけることと、詩を書くこと。密かに作家になる夢を持っているが、父が息子のそんな生き方を認めるはずもない。鬱屈した暮らしの中で折れそうになった心を救ってくれたのがブルース・スプリングスティーンの音楽だった。ジャベドはスプリングスティーンの歌に自身の境遇を重ね合わせる。
 抑圧からの脱出│。日本だと尾崎豊や浜田省吾の曲に近いものがあるかもしれない。
 スプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ・USA」。アメリカを賞賛する歌だと思われがちだが、実はベトナム帰還兵の国家への失望が歌われているという。
 スプリングスティーンの曲を紹介してくれたシーク教徒のループス。社会運動に熱心な恋人イライザ。幼い時から差別なく接してくれたマット。スプリングスティーンの曲に合わせて、彼らとの友情が描かれる。
 ジャベドはやがて、「抑圧からの脱出」の向こう側にあるスプリングスティーンの歌詞の奥深さに気づく。
 一説によると人は14歳ぐらいで聴いた音楽に一番影響を受け、それは一生続くという。実話をもとにした作品で、イギリスの話だが、共感できる部分が多かった。
【戸田 照朗】
 監督・脚本・製作=グリンダ・チャーダ/脚本・原作=サルフラズ・マンズール/出演=ヴィヴェイク・カルラ、クルヴィンダー・ギール、ミーラ・ガナトラ、ディーン・チャールズ・チャップマン、ネル・ウィリアムズ、ヘイリー・アトウェル、ロブ・ブライドン、アーロン・ファグラ、デヴィッド・ヘイマン/2019年、イギリス
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 「カセットテープ・ダイアリーズ」、デジタル配信中/ブルーレイ&DVD発売中、ブルーレイ5170円(本体4700円)、DVD4180円(本体3800円)、発売元・販売元=ポニーキャニオン

©BIF Bruce Limited 2019

©BIF Bruce Limited 2019

©BIF Bruce Limited 2019

©BIF Bruce Limited 2019

©BIF Bruce Limited 2019

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