行政主導の道路開発に「待った」をかけた市民の記録
「まちづくり」
『「関さんの森」の奇跡』出版の意味を問い直すノンフィクション

「関さんの森」の奇跡 市民が育む里山が地球を救う

 『「関さんの森」の奇跡 市民が育む里山が地球を救う』=写真=がこのほど新評論から出版された(税別2400円)。著者は関さんの森の所有者だった関さん姉妹の妹の関啓子さん。
 一橋大学名誉教授で社会学の博士。専門は教育思想史、比較教育学、環境教育。ノンフィクション作家。アムールトラをこよなく愛し、トラに関する著書もある。
 自然が大好きだった父母に育てられた啓子さんは、小さいながらも豊かな自然を育んでいる里山を見ながら育った。第1部の「里山論」では、「人里近くにあって、その土地に住んでいる人のくらしと密接に結びついている山・森林」(広辞苑)である里山がなぜ重要なのか、里山を取り巻く環境の変化や、危機的な現状について述べている。
 第2部の「里山を育み、護る運動」では、1996年に誕生した「関さんの森を育む会」の活動をはじめ、2007年ごろから再燃した森を貫通する都市計画道路3・3・7号線の問題で、どう行政に対処していったかを詳しく書いている。
 父故・関武夫さんが屋敷林と畑の一部を「こどもの森」「こどもの広場」として市民に開放したのは1967年。武夫さんも道路問題を解決し、森を残すことに苦慮してきた。関家にとって道路問題は古くて新しい問題だった。
 第3部は「里山保全イノベーション」として、これからの自然保護活動にも触れている。
 以下同書の紹介文を引用させていただく。
 「『関さんの森』とは、千葉県松戸市の北にあるおよそ2ヘクタールの森林です。1996年に公益法人に委譲されて以来、市民に開放され、子どもの環境教育の場として、市民の憩いとケアの場として大いに活用されていました。ところが2000年代末、この森を引き裂くようにして都市計画道路が造られ、土地の強制収用手続きがはじまったのです。『関さんの森』では23年前から『関さんの森を育む会』という市民団体が里山保全に努め、誰もが参加できる自然観察会やイベントを開催してきました。環境研究で世界的に高名なレスター・ブラウン博士も訪れ、『この森はとても気持ちがいい』と言って生態系保全の活動を高く評価してくれました。会員たちと元地権者は、里山をできるだけ壊さないように道路の形を変更する案を提示しましたが、行政主導の開発に立ち向かってもしょせん勝ち目はありません。でも、黙って引き下がることができなかった。なぜなら、この森は、都市部にありながら生物多様性が豊かで、地元住民が自ら育て、活用し、運営している市民の共有財産だからです。つまり対立は公共性をめぐる闘いであり、単なる抵抗運動ではなく政策提言運動であり、自然との共存を目指す文化運動でもある|そう、これは市民による「まちづくり」をめぐる闘争なのです。本書はこの運動の推移、市民が提言した道路変更案が実現されていく過程を描いたものです。あわせて現代における里山保全活動の価値や意義も論じます」。
 市民と行政が対立したいくつかの運動を取材して思うのは、市民側がある程度の譲歩を行政から勝ち取ることはごく稀で困難だということ。今後の市民運動にも貴重な記録となる一冊。【戸田 照朗】

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