全国国際教育研究大会 高校生弁論大会
自主夜中卒業生に大臣賞
王弘旭さんと石川名月さん

本郷谷市長を表敬訪問した王さん(中央)と石川さん(左)

 8月8日・9日に奈良県で行われた第56回全国国際教育研究大会の高校生弁論大会で文部科学大臣賞を受賞した王弘旭(おうこうきょく)さん(柏市立柏高校2年)と、昨年東京都で行われた同大会で外務大臣賞を受賞した石川名月(いしかわなつき)さん(同校3年)が9月25日、本郷谷健次松戸市長を表敬訪問した。【戸田 照朗】  二人は中国から来日後、松戸市勤労会館でNPO法人松戸市に夜間中学校をつくる市民の会が運営する松戸自主夜間中学に通い日本語などを学び、柏市立柏高校普通科国際教養クラスに進学した。同校には外国人特別選抜、帰国子女特別選抜があり、「母語が外国語である生徒」の受け入れと支援体制に力を入れている。
 王さんは、中国吉林省から3年前に来日。両親は、松戸市内で中華料理店を営んでいる。
 弁論大会のテーマは「学びとは何か ~松戸自主夜間中学で~」。全国大会に出たことで、多くの人に松戸自主夜間中学のすばらしさを伝えることができてよかったという。
 王さんの弁論の要旨は以下のとおり。
 「中学3年の時に日本に来たが、誕生日の関係で日本の中学には入学できなかった。かわりに日本語学校に通ったが、馴染めずに、母が友達から聞いてきた松戸自主夜間中学に通うようになった。外国人や障がいのある人たちが共に学ぶ光景に驚き、また、お金を払わないのに勉強ができることに驚いた。
 新年会の司会を一緒にした障がいのある女性のことが強く印象に残っている。彼女は自分で立候補し、上手く話せないのに堂々と司会をし、いつも授業が始まる時間より前に来て一人で自習をしていた。
 自主夜間中学に通い始めて間もなく、高校を受験したが、日本語がまだ苦手で落ちてしまった。同じ年齢の人たちより進学が遅れたことにショックを受け、高校、大学と進み、良いところに就職したいという自分が思っていた将来のコースにつまずき、やる気をなくして、中国に帰ることになった。自主夜間中学の先生に最後のお別れの挨拶に行くと、先生は『あなたは希望をなくしているかもしれない。しかし、私達は、あなたに希望を持っている。あなたは、私達の希望を自信にしてください』と言った。
 日本に残ることに決めた王さんと先生の猛勉強が始まった。1年遅れで高校に入り、日本語の力をつけ、英検準1級もとることができた。『人のやる気を引き出すのは、自分の力を信じてくれる他の人のやる気だ』と知った。
 自主夜間中学に、おばあちゃんのような『先生』がいた。しかし、『先生』だと思っていたおばあちゃんは、実は生徒で、戦争で勉強する機会がなくて、ひらがなから勉強していた。
 『学ぶとはどういうことでしょう。自分が将来、良いところに就職できるためだけのものでしょうか。これは、私の一生のテーマになりそうです。(中略)1年の遅れくらいで何を気にしているのだろう。私は、まだ長い人生の学びのスタートラインに立っているに過ぎないのですから』」。
 王さんの夢は大学院に進んで国際文化を研究することだという。
 石川さんは中国黒龍江省の出身で、4年前に来日した。家族に中国残留孤児がいる。
 弁論大会のテーマは「見えない言葉の壁」。
 石川さんの弁論の要旨は以下のとおり。
 「中学3年生になって少し日本語がわかるようになってきたが、友達はできないし、言葉がわからないので成績もよくなかった。『言葉ができないと、無視されたり、馬鹿にされたりするというのが私の感じたことです。(中略)言葉が通じないということで見えない壁があるのです』。
 親切にしてくれた人もいた。ボランティアで日本語を教えてくれた先生は『そんなに急がなくていいよ、ゆっくりやればいい』と、焦って勉強する私に声をかけてくれた。
 もう一人、同級生の男の子が名前を覚えてくれて、『こんにちは、石川さん』と会うたびに声をかけてくれた。ほとんどの同級生が口をきいてくれない中で、声をかけてくれる人がいるだけで嬉しかった。『その男子は私がそれほど感謝してたことを知らないでしょう』。
 『国際化に一番大切なことは何でしょうか。(中略)違う言語、違う文化の人がいたら、その人と何とかコミュニケーションをとろうとすること、自分の何気ない行動が相手をどんな気持ちにさせるか感じることだと思います』。
 言葉を覚えるにつれ、時間が経つにつれ、少しずつ友達が増え、今は本当に楽しい高校生活を送っている。
 『急がなくていい』という先生の言葉を思い出す。国際交流は時間がかかる。相手とじっくり向き合っていくこと、時間を共有することこそが大切ではないかと思う」。
 石川さんの夢は大学で勉強し、グローバルなビジネスリーダー(経営者)になることだという。

松戸自主夜間中学 

 王さんと石川さんが通った松戸自主夜間中学校は毎週火曜日の午後6時~9時、金曜日の午後3時~6時(昼間部)、6時~9時、松戸市勤労会館で行われている。
 学習者は何らかの事情で義務教育を十分に受けらえなかった人たち。例えば、戦後の混乱や貧困のために教育が受けられなかった高齢者、障がいや部落差別、民族差別などで義務教育が受けられなかった人、いじめなどで不登校になった人、在日外国人など。
 授業は机を並べての教室方式で行われる一斉授業と、マンツーマンで行われる個別授業がある。
 1983年(昭和58年)8月2日設立。通算開講回数は3160回、延学習者数は2000人を数える。
 松戸市には今春、松戸市に夜間中学校をつくる市民の会が長年求めてきた公立の夜間中学校、市立第一中学「みらい分校」が開校したが、同会では今後も自主夜間中学の運営を続けていく方針で、「公立」との協力・連携も模索している。
 問い合わせは、☎090・3103・1006榎本博次さんまで。

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