日曜日に観たい この1本
彼らが本気で編むときは、

彼らが本気で編むときは、

 観終わった後に、とても切なく、優しい気持ちになった。
 作品はこんな場面から始まる。一人小学校から母と暮らすアパートに帰ってきたトモ(柿原りんか)は干してあった洗濯物を片付け始める。キッチンには洗い物がそのままで、トモはコンビニのおにぎりにかじりつく。夜寝ていると、母ヒロミ(ミムラ)が帰ってきた。飲みすぎたのか気持ちが悪そう。翌日学校から帰ってくると、置き手紙とともに、わずかなお金が置いてあった。
 何度目かの家出。また男のところに行ってしまったのだ。ネグレクト。育児放棄。母である前に女であることを選んでしまう人。
 トモは叔父のマキオ(桐谷健太)を頼ることにする。マキオは恋人のリンコ(生田斗真)と一緒に暮らしていた。リンコはトランスジェンダーで元は男性だった人。最初は戸惑うトモだったが、リンコの優しく温かい人柄に触れるうちに冷たく凍りついた心が溶けていく。毎日朝晩に作ってくれる温かい食事、かわいいキャラ弁。それは、トモが母にしてほしいと願いながら、一度も味わったことのないものだった。

Ⓒ2017「彼らが本気で編むときは、」
製作委員会

 この物語には5人の「母親」が出てくる。その業(ごう)=エゴのようなものも描かれている。
 リンコの母(田中美佐子)は、自らの心と身体に違和感を覚える「息子」の気持ちに気づいた時から常にリンコの味方で、リンコの気持ちを受け入れてきた。リンコを傷つけるものは、たとえ相手が誰であろうと許さないという凄みがある。
 トモの同級生の男の子は女性的なところがあり、いつも友達から仲間はずれにされ、からかわれている。その母親(小池栄子)はそんな息子の傾向を受け入れることができない。
 ヒロミとマキオの母、つまりトモの祖母は、認知症が進んで、リンコが働く施設に入居している。
 トモの祖母は母のヒロミとは反りが合わなかったようだ。しかし、この祖母、母、娘の間を結ぶ細い糸のようなものを感じた。それぞれの場面に意味があり、とても丁寧に作られている作品だと思う。
 そして、リンコがトモに抱く母性は、どの母親にも負けないくらい温かく深い。だがその愛はどの母親よりもエゴがない。
 トモに問われて、マキオがリンコとの馴れ初めを語るシーンが好きだ。優しく介護するリンコの姿が美しかった。外見の美しさだけではなく、そこに内面の美しさを見たのだろう。心を好きになってしまうと、もう相手の性別など気にならなくなった。
 無知は無理解と偏見を生む。自分の性に違和感を覚える人の苦しみは、当事者でなければ分からないだろう。今は性同一性障害という言葉もあり、厚生労働省も認め、少しずつだが認識は進んでいると思う。しかし、言葉が出来るずっと前から、トランスジェンダーの人はいたのだ。
 どんな性であれ、人が人を尊重し、愛することは尊い。
【戸田 照朗】
 脚本・監督=荻上直子/出演=生田斗真、桐谷健太、柿原りんか、ミムラ、小池栄子、門脇麦、柏原収史、入江海翔、りりィ、田中美佐子、2017年、日本
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 「彼らが本気で編むときは、」、DVD税別4900円、ブルーレイ税別5800円、発売元=ジェイ・ストーム、販売元=ソニー・ミュージックマーケティング

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